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Guy FawkesU
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 終わりに…


 日が高く昇る頃には、一人の青年と二人の少女は海辺の岸壁に着いていた。
 切り立った崖に舗装された道路。白いガードレール。
 一人の少女。美穂は座り続けて固くなった身体を伸ばし、ガードレールに手をかけて海を見ていた。
 初めての海だ。
 潮風に髪がなびく。少し、潮の香りが鼻をつく。
 写真通りの光景だった。
 鳥が空を飛んでいる。あれがという鳥なのだろうか。白く、足の赤い鳥だった。
 木々も生い茂っていた。あの墓地で見た、生き生きとした木に似ていた。
「…ここが…知尋さんのふるさとだったのかも知れない…」
 今や亡き、愛する人間の顔。それが鮮明に思い出される。
 遥か向こうに、町が見える。巴と尤が、一度訪れた町だ。これから自分はそこに行く。そこでまた、娼婦として生きていくのだろう。心を売る娼婦として。
 見る限り、小さな町だった。大きなビルなど殆ど見えない。
 巴と尤も、美穂に並んで海を眺めていた。波の音が、よく聞こえる。
「…お別れですね」
 美穂は言った。
 やはり、寂しい。これからは、本当に一人で頑張らなくてはならない。
「…ま、一時のお別れだな。一生会えないってわけじゃねぇよ。そんな顔するな」
 尤が微笑んだ。
 この青年は、普段子供じみているくせに、時折やけに大人びて見える。
 美穂も微笑みを返す。そう。別れは永遠ではない。それに、また新たな人達に出逢える。自分の、家族が増える。それを考えれば、むしろ心が弾むくらいだ。…そのぐらいでなければ、旅になど出なかっただろう。
「私達はこのまま行こうと思うけれど、どうする?町まで送っていこうか?」
 巴の申し出に、美穂は首を振った。
「歩いていきたいんです。あの町まで。そして、自分の足で辿り着きたい」
「…そう…」
 巴も寂しいらしい。美穂の頬に、優しく手を触れる。
美穂と巴は、姉妹のようであったと思う。気にかけてくれる優しい姉は巴。美穂は妹。いつのまにか、そんな関係になっていた。
「また、絶対に会おうね」
 巴は、微笑んだ。その目に、涙が光っている。
 自分もつられて目が熱くなった。それでも、涙は流さなかった。まだ、我慢していよう。
「はい…!」
 二人は、バイクに乗り込んだ。いつもの通り、甲高い音が立つ。
「じゃあな。美穂」
「元気で…」
 心なしか、尤も涙ぐんでいるように見えた。
 美穂は言葉を返さなかった。
 言葉を出せば、涙も溢れてしまいそうだったから。
 小さく、手を振った。そして微笑んだ。
 尤と巴は頷き合うと、すごいスピードで走り出していった。前も見ず、ただ後ろを振り向き、大きく手を振っていた。
 美穂も手を大きく振った。
 二人が見えなくなるまで、大して時間はかからなかった。
 …。
 …風が、吹き抜けていく…。
 しばらくして、美穂はから写真を取り出した。そして、キャンデーも。キャンデーは、運転手から知尋への贈り物だったものだ。
 落ちないように、慎重にガードレールを乗り越える。
 より、海を近くに感じた。
「…知尋さん」
 永遠に眠り続ける、愛しい人。
 その名を呼びながら、美穂は写真を破いた。粉々になるまで。
 それは手向けだった。
 死んだ知尋への。そして、顔を知らぬ少女、桃への。
 二人が幸せでありますように。
 いや、
 二人が幸せでありましたように…。
 写真を破き終え、まとめてそれを宙に投げる。
 写真は風に流されながら、浮いたり沈んだりを繰り返す。それでも、海に向かって、確実に落ちていった。
 …。
 知尋さん…。
 私、頑張るよ。
 どんなことがあっても。
 知尋さんの言葉を信じて、頑張るよ。
 だから見守っていてね。
 空の上から。
 桃さんと二人。
 私を見ていてね。
 …美穂は知らぬ間に手を組み合わせ、祈りを捧げていた。
 手を組み合わせる瞬間、
 二人の魂を抱き込んだように感じた。
 長い長い、祈りだった。
 それを終えて、もう一度ガードレールをまたぐ。
 そして、走り出した。
 沢山の思い出。
 沢山の絶望。
 沢山の希望。
 現実の恐怖。
 現実の幸福。
 全てをかみしめて、
 私は生きていく…。
 美穂の目から、涙が流れ続けていた。
 それは我慢し続けた涙だった。
 知尋に捧ぐ涙。
 愛しい人に捧ぐ涙。
 涙になら、永遠を信じられる。
 嬉しいときも、
 悲しいときも、
 自分は涙を流し続けるのだろう…。
 少女、美穂は走っていく。 
 その手にハーモニカを握りしめ、
 どこまでも、
 どこまでも…。
 永遠に止まらない、涙とともに。
  
                     了


   


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